7M4CQN (also JN2FCL)
0.はじめに
今年もV・UHF最大規模の6m&Downコンテストが7月第1週に開催された.今回は関東に来て以来初めてシングルバンドにエントリーすることになったが、動機は6&D前の関西ハムの祭典後に行われたコンテスターの集いにてJI3KDH片岡氏からC50の魅力を語って頂いたことである.
当初はシングルは暇だからという理由で乗り気ではなかったが、氏の巧みな関西弁による話術によってそそのかされてしまい、気が付いたら手元にCL−6DXZ入りの段ボールが送られてきたのであった.
50MHzシングルの常連ではないため特にコンディションに関する勘がなく、当初は苦戦を強いられるものだと予想された.コンディションが良い状況ではまず勝ち目はないであろう.移動局の利点であるGW勝負を期待するしかなかったのであった.
1.ロケーション
房総半島は、ほぼ中央部に南北に長い山地を持っており、ロケーション的なものを考えると内房側のほうが良い.その代表的な山が今回運用した鹿野山である.また、他にも同じ300m級の山として鋸山、富山などが聳え立っている.しかし、鹿野山が房総半島で最も北に位置するためにそれ以南の山々は首都圏からも遠くなることを考えればあまり良くないと思われる.逆に西方向に関しては、この2つ山々のほうが東京湾に近く、且つ南に位置するため良いものと思われるが.
今回、運用した鹿野山は過去5度にわたってJARL4大コンテストで筆者が運用経験がある場所であり、地理的な長所や短所はほぼ分かっているつもりである.運用地の周囲は木で囲まれており、まるで森の中にいるような感覚.初めて移動した時の夜などはあまりの恐怖に寝られなかったこともあったほどだった.
当然、トイレにも困って膀胱が破裂するのではないかと疑ったぐらいである.ただ、西から南にかけては木の影響はほとんど受けず、数km先には東京湾が見え
る.一方、北に関しては10m近い立木があり、枝も密集していることで先が見えない.このことが飛びに影響したという事実はあまりない.
設営はマルチバンド向きではないという場所で、仮に設営するとしてもかなりの工夫が要求される.ブームやエレメントが長すぎても幹や枝に触れてしまって回転不可能となるケースも考えられる.それ故に、5回の運用中にコンテスターが場所取りに来たことは一度もない.また、道も細いため普通車では容易に進むことができないという難点もある.恥ずかしい話だが、筆者は97年のALLJA時に凹凸にはまってしまい、身動きが取れなくなった経験がある.
V/U主体ということもあってか、今回はかなりの移動局が鹿野山にやってきた.直線で100m以内に2組抱えた筆者だったが持ち前の我慢強さと相手を蹴落とす闘争心で踏ん張った.2組のうちの一人でもあったJH4UYB岡野氏と終了後に会った時にこうコメントを残した.「CWはCQNの抑圧がすごくてほとんど使いものにならない.おかげで深夜のマルチ取りがCWで出来なかった.」
2.コンテスト前
当日、両アンテナを設営後に聞き比べをしたが近距離にはあまり効果はなく、距離に比例して効果が出ているようである.また、Esにはどちらが適当かなどというデータがないために本番での切り換えに迷う可能性があった.
3.設備紹介
ここでは今回の6m&Downで使用した設備などを詳しく紹介する.
リグはTS−690とシンプルなものであり、91年以来大きな故障なしで現役として活躍している.Sタイプの50W機.
次にアンテナだが、CL−6DX(6ele)に加えてCL−6DXZ(8ele)を用意.GWの更なる伸びを期待し、導入に踏み切ったのである.6eleをルーフタワー側のポールに取り付け、9mh.また、このルーフタワーにはローテーターを装備した.8eleはタイヤベースを使い、7mhにまで上げた.
また、ロギングソフトは常時ZLOGを使用しFMV−5100NC/Sと共に18時間活躍した.しかし、眠気防止の意味も兼ねてレートが下がる時間などは自分で電鍵を叩いていたりした.
4.コンテストを前にした戦略(対策)
マルチバンドではないためQSYの組み立ては必要ない.よって、その分だけシングルは楽であるが総得点にマルチが占める比重が大きいために取りこぼしは致命傷になることは言うまでもない.したがって、頻繁に呼びに回るなどの策を講じる必要がある.ここで差が出るようなことがあれば勝ち目がなくなるというわけである.だからこそ、長年の勘というものが物を言うということを先に述べたのであった.
5.タイムチャート(2タイプ)
以下に今回の詳細なタイムチャートを示す.1時間毎のチャートに続いて、10分間毎に区切ったQSO数も算出してみた.
(a)1時間毎のタイムチャート
|21 22 23 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14| 計
---+-----------------------------------------------------+---
50|66 44 45 32 25 18 14 11 16 18 23 16 14 13 20 21 10 16|422
---+-----------------------------------------------------+---
計 |66 44 45 32 25 18 14 11 16 18 23 16 14 13 20 21 10 16|422
(b)10分毎のタイムチャート
21 22 23 00 01 02 03 04 05 06 07
------+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----
50 IB7AAAC859737399A72A746361564323344222621121116 33 55341262546422
------+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----+-----
Sum 66 44 45 32 25 18 14 11 16 18 23
08 09 10 11 12 13 14
------+-----+-----+-----+-----+-----+-----+----- [表記方法]
50 143233343211 441131653321373431242 1445 21 + 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
------+-----+-----+-----+-----+-----+-----+----- 10: A B C D E F G H I J
Sum 16 14 13 20 21 10 16
6.時間帯別検証
自分のQSOを基にして4章の時間帯に区切って各時間帯毎にに検証したいと思う.時にはリアルに、またある時にはつまらなく.まるで秒単位で変化するが如く、コンディションの変化を以下の検証により読み取って頂ければ幸いである.
〔A〕スタートダッシュ(スタート〜00時台まで)
いつもながら、房総半島(千葉)からのスタートダッシュは北向け首都圏ビーム.この時点では6eleだった.V/UHF主体だけあって、やはり高いレートを維持.21:06にはJH8SLSとのQSOの際に8eleを慌てて北向けに修正し、聞き比べをしたが断然8eleのほうが信号は強かった.QSBはなく、弱いながらも了解できる状態であった.Scが出ている気配はなく、おそらく伝搬の種類はEsの部分的発生と思われる.このQSOを皮切りに8ele使用で8エリア勢ともQSOを重ねていく.立て続けに呼ばれたことで、他のマルチを狙うために巡回をしたがRUNの気配はなかった.
22時台も続けて首都圏方向で局数掘り起こしに専念するべきだが、それはマルチバンダーの考え.今はシングルバンダーなので細めにコンディションの把握に努めなければならない.西日本を狙うべく西ビームに修正.6エリア方面にダイレクトに向けてもそれほど信号は強くならない.2/3エリア方向のビームで入感.加えて信号が不安定なためFAIによるQSOと思われる.こうして6エリアとのQSO機会が増やしていった.6eleではほとんど入感しない模様.FAIに加え、着々と西日本のマルチをGWで稼いでいく.しかし、アンテナをグレードアップした影響か伊豆半島の抑圧がいつもより強烈でQSO成立まで時間を要することも頻繁にあった.伊豆とは東京湾を隔てて直線でほぼ80kmと思われる.逆にサイドは6eleより切れる.
この時点で6エリアのマルチは北部を中心に獲得しているが、南部はまだできていない.合間を見て巡回したつもりでだったが見つけることはできなかった.不安定なコンディションということもありスポット的オープンの可能性も否定できない.
一段落したところで再びビームを北向けにして首都圏を狙う.依然として1エリアからは呼ばれ続けているが、それでも西日本が気になる.コンデションもいつ変化するかも分からないためマルチの取りこぼしも危険である.首都圏に切りをつけて局数重視からマルチを重視する戦法を取った.ビームは若干南に修正し西南西向けとした.この時点で6エリアの信号はQSBもなく、安定してきている.かつ、4エリア西部ともQSO.4エリア西部の方が強かったことで距離的に言えば、Scであると思われる.しかし、まだ完全なオープンではない.4エリア西部がScでQSOできれば6エリア北部周辺は入感してもよい筈である.しかし、この時点では6エリアで聞こえるのは奄美大島のJP6JKKのみ.JKKの信号は南南西が最も強い方向であった.Esのかけらでも出ているのか?それでもなお、宮崎や大分といった地域が入感してこない.また、4エリアは2局QSOしているが、ScとGWの境は広島県と思われる.
〔B〕中盤戦(01時〜06時台まで)
マルチバンダーのマルチ取りは日が変わってからCWモードで稼ぐ傾向がある.しかし、50MHz主体の6&D.やはり、分散している感があってか出来てもおかしくないマルチも落としているのが現状である.レートも20QSO台と落ち込みが激しくなり、早朝まで我慢の時間が続く.北/西と交互に向きを変えながらひたすら局数の掘り起こしに専念した.
02時を過ぎる頃からやっと常連コンテスターとのQSOが増えてきた.主に
8eleを使っていたが、6eleとの切り換えで信号強度の差が顕著に表れていた.特に四国のJA5ZNWなどはメーター4という差であった.地理的に房総半島から西は東京湾、さらに海が続いており関西南部・四国とは相性が良い模様.
10QSOを下回る勢いでレートダウンしている時間帯も出てきた.03時、04時台とマルチの伸びもいま一つでいずれも1マルチのみ.そのような中で03時台には広島のJF4ETKとQSO.広島と言っても岡山県との県境なためにGWであることは間違いないであろう.
〔C〕早朝から正午にかけて(07時〜12時台まで)
この頃からかなりこまめにビームを調整し始め、コンディションの変化を確実に取らえる体制を作り始めた.06時台までは何の兆候も見られなかったが、07時を過ぎる頃から北向けはかなり不安定なFAI、南向けは弱いEsがそれぞれ発生した.この時点で中距離に関しては全てGWでScの発生には至っておらず.
時間と共に山口県や広島県など中国西部がメーターでS9を超えてくるほどの信号が送りこまれてきた.かなり強力なScが発生したと思われる.少し前の時間までレートにして10QSOを切るのではないかと思うほどの時間帯であったが、07時24分にQSOしたJH4JPOの強烈な信号で今までの眠気が一気に吹っ飛んで目が覚めた.距離的にも関東西部や伊豆よりも若干東に位置するために早めのオープンとなった.このことはフィルターなしで各局の動向を気にしながら運用していたために分かったことである.しかし、6/8エリアはそれほど強くない感じであった.FAIや弱めのEsなために抑圧で潰されて相手を確認するのに苦戦した.
ScによるQSOは、岡山県から山口県にかけての中国地方を取り囲んでいる.50MHzのCWではフィルターはそれほど狭いものを使わないが、ここまでオープンしてしまうとまるで7MHzのようになってくる.6/8エリアが弱いために隙間から聞こえる感じとなり、かなりのワッチ力が要求される.筆者は基本的には7MHzなどのローバンド以外はフィルターを狭くしない方法を取っている.なぜならば、弱い信号の局を取りこぼす恐れがあるからだ.そのため、日頃の訓練のおかげでフィルターなしでも聞き分けれる技術を身につけたのである.自己の耳を良くする方法としては簡単にできる方法である.
6eleと8eleの2系統はコンディションに合わせて即座に切り換えができることから非常に有効な手段と思われる.
〔D〕終盤戦(13時台−フィニッシュまで)
この時点で6エリアは大分のみを残しているが、これほど開けていて且つ巡回しているのにも関わらずQSOできかったのでもうこれ以上拘る必要がないと判断し、北に重点を置く戦法を選んだ.北東北や8エリアもかなり残しているためにマルチが増える可能性は非常に高い.
過去、房総半島から5度のJARL4大参加経験があるがいずれも青森以北はGWで取ることができないというデータがある.今回は8eleを投入したことで少しでも伸びてくれればという期待感もあった.約2時間の間、大半は北向けビームで徹してマルチ獲得に全力を注いだ.ライバルであるJI1ACIとは、周波数が隣接関係にあるため、且つビームの方向上に位置するために常に聞こえてきた.時々、信号の強さが変わるためにビームを修正していることが伺えた.もう相手がいないのか、おそらく頻繁に方向を変えていたものと思われる.
青森に加え岩手も落とす結果となってしまった.こうなると当然8エリアなどGWでは無理な話である.秋田は最後の最後で呼ばれた形となった.まさに2時間も向けていたねばりというか、執念であった.
7.マルチマップチャート
11111111111111
000000000111110000000011111111112222222222333333333344444444445合
123456789012342345678901234567890123456789012345678901234567890計
50 .XXXXXXX...X....XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX.X.XX.XXXX.XX....47
(尚、「X」は取れたマルチとする.)
8.時間別の取得マルチチャート
[21] 11 10 13 18 08 16 12 106 103 105 112 14 07 09 15
[22] 41 20 40 19 43 21 24 28 26
[23] 17
[00] 33 31 23 27 25 46
[01] 22
[02] 37 38
[03] 35
[04] 29
[07] 42 108 107 104
[08] 34
[09] 45
[12] 102 05
[13] 06
[14] 30 04
9.時間並びにエリア別QSO状況を示すチャート(括弧内は電信の内数)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 Total [21] 53(53) 3(3) - - - - 1(1) 6(6) - 3(3) 66(66) [22] 25(25) 8(8) 4(4) - - 5(5) - - 1(1) 1(1) 44(44) [23] 40(40) 3(3) - - - - 2(2) - - - 45(45) [00] 13(13) 8(8) 6(6) 2(2) - 2(2) - - - 1(1) 32(32) [01] 12(12) 7(7) 4(4) - - - 1(1) - - 1(1) 25(25) [02] 10(10) 2(2) 2(2) - 2(2) - 1(1) - - 1(1) 18(18) [03] 5(5) 1(1) 6(6) 2(2) - - - - - - 14(14) [04] 6(6) 2(2) 1(1) - - - - - 1(1) 1(1) 11(11) [05] 8(8) 6(6) 2(2) - - - - - - - 16(16) [06] 12(12) 3(3) 1(1) - - - - - - 2(2) 18(18) [07] 8(8) 3(3) 1(1) 4(4) - 3(3) 1(1) 3(3) - - 23(23) [08] 6(6) 2(2) 2(2) 6(6) - - - - - - 16(16) [09] 5(5) - - 2(2) - 6(6) 1(1) - - - 14(14) [10] 11(11) 1(1) - - - - - - - 1(1) 13(13) [11] 12(12) - - - - - - 6(6) - 2(2) 20(20) [12] 16(16) 1(1) - - - - 1(1) 2(2) - 1(1) 21(21) [13] 7(7) 1(1) - - - - 1(1) - - 1(1) 10(10) [14] 10(10) - - - - - 3(3) - 2(2) 1(1) 16(16) Total 259 51 29 16 2 16 12 17 4 16 422 (259) (51) (29) (16) (2) (16) (12) (17) (4) (16) (422)
10.総括
当初から局数だけは誰にも負けない自信はあった.なぜならば、これがまさしく移動局の利点であり、首都圏をカバーできることに加え、西方向にもGWが伸びることが理由である.結果的にC50の上位陣には20〜30QSOの差をつけたものと思われる.しかし、先にも述べたようにシングルバンダーにとっては局数は当たり前として何よりもマルチが重要になってくる.これを怠れば、いく
ら僅差でも負けは負けであるのだ.今回は前半は不安定なコンディションから始まって、後半はScなども発生した好コンディションであったがためにマルチで勝負は決まることになるだろう.つまり、伝搬を味方につけられるか否かが勝敗を決定すると言えよう.たとえ20QSOもリードしていても・・・.
また、筆者は長年マルチバンダーとして参加していたために50MHz独自の勘はあまりなかった.しかし、今回やってみた限りではあまりその事は必要なく感じられた.なぜなら、ビームを2系統用意したことで即座に方向を探ることができたからだ.もしも1本だけだったらロスタイムだけでもかなりのものになったかもしれない.この点で各C50常連局はビーム1本でも確実に得点を重ねていくような勘があるのかもしれない.
11.最後に
好コンデションに支えられ、特に日中はHFハイバンド並みのオープンで筆者自身も勝負を一旦忘れてしまうほどだった.これが普段ではあり得ない伝搬における楽しさかもしれない.また、考えられないほどの強さで中距離から遠距離方面から入感してくることは伝搬の不思議へとも繋がるのである.
筆者自身、シングルバンドに真剣にエントリーしたのはほぼ7年ぶりぐらいになる.マルチバンドの戦法とは違い、マルチの取りこぼしを無くすためにも時にはランニング、またある時には呼びまわりと忙しい部門であると分かった.コンテストに必要な基礎的能力、つまり特定のコンテストにとらわれずに基本的な技術・能力・知識・体力などを日頃から高め、今後のためにも役立てる必要があるのではないだろうか.すなわち、「不断の努力」が大切なのである.
最後に、今回QSO頂いた400局を超える方々に感謝すると共に、この部門の面白さを教えて頂いたと同時にエントリーを勧めて頂いたJI3KDH片岡氏、そして今回のライバル・移動局と固定局の違いということに観点を置いて様々な角度から分析をして頂いたJI1ACI中川氏に終始一貫大変御世話になったことを記して感謝の言葉に代えたい.
1998年 秋
JN2FCL 浅岡