6m & Down コンテスト分析レポート

「移動局を迎え撃て!」

JI1ACI
中川 三紀夫

 

0.はじめに
JI1ACIは、1982年の全市全郡コンテストでデビューした後、電信50MHz部門(C50)で10回の入賞経験がある。1986年の 6m&Down コンテストを最後にしばらくコンテストから遠ざかっていたが、11年間後(1997年)の6m&Down コンテストで再デビューした。
コンテストを中断した理由はいくつかあるが、そのひとつがJH1TVZ/1に勝てなくなったことである。移動局対固定局の戦いでは、局数が稼げる点で移動局が圧倒的に有利である。コンテスト復活にあたっては、移動局に対抗するためにパワーアップして局数差を縮め、マルチ数で上回ることをねらった。地上波で負ける分を対流圏伝搬で取り戻そうという考えである。
再デビューしてみれば、関東地方ではC50で優勝をねらう移動局はなく、最大の壁は固定局だった。JE1BMJに2度敗れ、3度目の挑戦(ALL JA コンテスト)でやっと彼を上回ることができた。6m&Down コンテストもJE1BMJとの戦いだろうと思っていたところ、コンテストの数日前に「JN2FCLがC50に参戦する」という噂を耳にした。相手は新進気鋭のコンテスタ、負けてはいられない。「今度は移動局に負けないぞ」と張り切って当日を迎えたのであった。


1.ロケーション
JI1ACIのQTHは、栃木県南部である。芳賀郡二宮町(PM96XI)と言ってわかる人がどれだけいるだろうか?東京から北に80kmの位置にある。JI1ACI はここで生まれ育った。二宮町の中心部といっても、ろくに店もないようなところだ。周囲のたんぼ地帯よりは高くなっているが、たんぼが広がるのは数km先だから、それが電波の飛びに影響しているとは思えない。
土地の標高は約60mで、タワーの高さと合わせたアンテナの海抜は80mほど。相手局を海抜0mと仮定すると見通し距離は40km弱しかないから、埼玉県以南の人口密集地帯は見通し距離には入らない。これは決定的に不利な要素で、電話でのコンテストは考えてみたこともない。しかし、東京から遠いことは利点にもなる。近くに強い局はいないのだ。筑波山移動の局は強力だが、南斜面から運用することが多いため、山かげになり極端な強さにはならない。最も近い固定局は10kmは離れている。


2.設備
20年前にあげた20mのタワーにCL610A(クリエートデザイン製10エレ)をのせている。リグは15年前に買ったFT726にヘンリーの Tempo 2006A をつないでいる。FT726は名機だと思うが、何とも古い。しかし極端に強い局がいないため、相互変調や感度抑圧はそれほどの問題にはなっていない。GaAsのプリアンプを持っているが、ゲインがありすぎるためか挿入するとかえって聞きにくくなるため使っていない。AFでのS/N比改善のためにスムージングフィルタとDSPフィルタを使っているが、使いこなしているとは言えない。。
ロギングには zLog を使用している。PCは386マシンを某所で拾ってきた。むかしハムジャーナルに掲載されたJA3YKCのコンテストキーヤーも使っている。いずれも送信時にPTTを制御してくれるの便利である。リグのセミブレークイン機能は使っていない。


3.前日まで
コンテストの1週間前から残業調整モードに入るのが理想だが、今回は失敗した。仕事が次々にふってきたのだ。しかも、前から依頼されていた某専門誌の原稿がしめ切りをすぎてもあがらない。水曜日に提出する約束だったが、担当の編集者に頼み込んで、土曜日にに延ばしてもらった。金曜日の夜から書き始め、終わったのはコンテスト当日の午前3時であった。掲載する図表については手もついていないが、とにかく寝ることにした。コンテスト中に書くことになるのだろうか。


4.コンテスト当日
6才の子供をプラネタリウムに連れて行く約束になっていた。昼から出かけて、終わったのが16時。16時半に東京を出発したが、環8が渋滞している。こんな時、エアコンが壊れているのは痛い。トンネル内で窓を締め切っていると、汗が噴き出してくる。車内の温度は40℃をこえていたはずだ。体力の消耗を恐れるが、手の打ちようがない。
19時少し前に、実家の近所のスーパーに寄る。コンテスト中の飲み物を買うためである。コンテスト中の食事は親が用意してくれるが、水分補給時間のロスを避けるためにペットボトルを買うことにしている。駐車場に戻りクルマの向きをかえていると、いきなりガンという。運転席側のドアに街灯があたっているではないか。ありゃ〜。そのまま実家に戻るが、けっこうショックだった。幸先が悪い。
19時すぎに実家に着き、風呂に入っていると、雷鳴が近づいてくる。変な雲があったな、と思っているうちにドカーンという光と音がして、ふっと電気が消えてしまった。19時30分。こりゃしばらくだめだな、と思うが、21時までに停電が直る保証はない。最初の1時間を失ったら、勝てるわけがない。暗い気分になるが、懐中電灯をつけて無線部屋まで行ってみると、こっちの方は電気がついた。しかし、外はガラガラピシャンをやっているので、アンテナをつなぐことはできない。雷のせいでリグとローテータをこわしたことがあるし、こんなんじゃ雑音ばかりで受信なんてできやしない。そのまま待つしかない。編集者に電話して、原稿の図表は週明けまで待ってもらうように交渉した。これでコンテスト中に仕事をするのは避けられた。
20時30分には雷もおさまり、アンテナをつないでみるとQRNは思ったよりも少ない。なんとかこれでコンテストができると安心した。

(A)スタートダッシュ
開始5分前から周波数を確保し、電波時計が21時になった瞬間からCQを開始する。スタートダッシュは、局数を稼ぐことが第一。南南西ビームでCQを続ける。栃木南部からは東京は南南西、2〜3エリアは南西方向になるため、南西からやや南よりにビームを向けることで関東のほとんどと2〜6エリアとの交信が可能になる。コンテストのたびにスタートダッシュはこのビーム方向で始めている。このビーム方向はいわば万能であるため、コンテスト中の3分の2はアンテナはこの方向を向いている。
今回はいつもよりもペースが早い。最初の1時間で66局と交信したが、これは自己最高だ。しかし、2〜3エリアが聞こえてこない。いつもなら常連がそれなりの強さで入感するのだが、さっぱり聞こえてこない。
21時台から、FAIで6エリアが聞こえてくる。ふわふわとした信号はFAIの特徴である。21時台に6エリアを4マルチ、22時台に3マルチ取り、最後の鹿児島県も0時台にゲット。2エリアが全部埋まったのは0時台、3エリアも京都をのぞいて0時台に全部埋めることができた。
この段階に至っても、JN2FCLがなんのコールを使っているのかわからない。「7なんとか」を使うと聞いていたが、どれがそうなのか確信が得られない。


(B)中盤
2時台から2〜3エリアが強くなってきた。それでも、いつもより弱い。夜中から明け方にかけては、マルチの稼ぎ時であるのだが、今回はあまり増えない。そうしているうちに、6時すぎに3エリアが強力に入感し始めた。しばらく西向きでCQを出していたが、もしやと思い北北東にビームをふると3エリアがS9で入ってくる。明らかにスキャッターだ。あわててCQを出し始めたが、1局交信しただけでスキャッターは消えてしまった。もったいない。
夜通しCQを出していた局は数えるほどしかない。7M1CQN/1がJN2FCLの別コールだろうと見当がついた。

(C)早朝から正午にかけて
アンテナを北に向けたり、南西に向けたりしながら呼びまわり、ランニングを繰り返す。7時すぎに新潟県がやっととれた。いつもなら日付がかわらないうちにできるのに。今回は、何か変だ。
7時すぎから4、5エリアが聞こえてくる。ここで4マルチを取った。ビームを調べると、ダイレクトの南西ではなく、西北西が一番強くなる。FAIの場合、ダイレクト方向よりもやや北よりから入感するのはよくあることだ。CQを出すと、2、3分に1局のペースでおもしろいように呼ばれていく。
8時半すぎから8エリアが入感する。続けざまに8エリアを4マルチ取ることができたが、コンディションの変化がはやくてナンバーの確認ができないことが何度もあった。

(D)終盤
離島を別にすれば、まだとれていないマルチは京都、福井、香川、愛媛と北海道の5マルチ。京都と福井はできるはずなのに。たんねんにワッチしCQを出すが、どうにも見つからない。正午すぎから西の方がオープンした。6エリアに混じって、1〜3エリアからも呼ばれる。南西ビームを万能と呼ぶゆえんである。この時間帯は中だるみになり聞こえる局数が少なくなることが多いのだが、コンディションがよいために多くの局がバンド内にいるのだろう。
いつもだと最後の30分は気が抜けてしまうのに、今回は最後まで粘った。やはりCQNというライバルがいたせいだと思う。

5.総括
固定からの何度も電信50MHz部門に参加してきた。移動局に勝ったことも負けたこともある。移動局が有利であるのは事実だが、負けないための工夫を重ねていたつもりである。
今回挑戦してきたCQNは現在売り出し中の若手コンテスタで、マルチバンド部門での実績も豊富だ。しかし、50MHzシングルバンドでの経験は少ない。CQNの若さとロケーション、ACIの経験の勝負だったと言えるだろう。
コンテストを終わってみれば、得点はほぼ同じ、互角の戦いだった。それぞれの持つものを出し切った。CQNは電波の強さを武器にするだけでなく、マルチや局数を拾い集めることも心得ている。若いながら老練の感すらあった。唯一の弱点は電信50MHzの特性をつかみきっていなかったことだろう。それも今回の参加で体得したに違いない。
CQN、ACIは来年の6DでのC50再戦を誓っているが、CQNが大きな進歩を見せるのまちがいないだろう。それをどう迎え撃つか、今から考えておこう。今回の分析は、いくつかのポイントを示してくれた。
分析の共同作業につきあってくれた7M4CQN(JN2FCL)浅岡さん、JI3KDH片岡さんにに感謝します。そして、浅岡さん、片岡さんと語り合う機会をつくってくれたQRLクラブの方々にもお礼を申し上げます。もしハムフェアでのコンテスターズミーティングがなければ、この企画は生まれなかったでしょう。
最後に、コンテストでQSOしていただいている方々にもお礼申し上げます。多くの方々に相手をしていただくことで、コンテストを楽しませていただいているわけですから。

6.資料編

JI1ACI SOP電信50MHz 栃木県芳賀郡(設置場所)
FT-726 + Tempo2006A(3CX800A7)
10 EL Yagi 20mH

<時間およびエリアごとの交信局数> (括弧内は電信の内数)

         1     2     3     4     5     6     7     8     9     0   Total

 [21]   51(51) 5(5)  -     -     -     7(7)  1(1)  -     -     2(2)  66(66)
 [22]   25(25) 3(3)  -     -     -     3(3)  5(5)  -     -     -     36(36)
 [23]   11(11) -     2(2)  -     -     1(1)  3(3)  3(3)  -     2(2)  22(22)
 [00]   18(18) 5(5)  4(4)  1(1)  -     3(3)  1(1)  -     -     1(1)  33(33)
 [01]   10(10) 2(2)  -     -     -     2(2)  3(3)  -     3(3)  2(2)  22(22)
 [02]    7(7)  7(7)  4(4)  -     1(1)  1(1)  1(1)  -     1(1)  -     22(22)
 [03]    9(9)  -     1(1)  -     -     -     1(1)  -     -     2(2)  13(13)
 [04]    4(4)  1(1)  2(2)  1(1)  -     -     2(2)  -     -     -     10(10)
 [05]    4(4)  1(1)  3(3)  -     -     -     4(4)  1(1)  -     -     13(13)
 [06]   12(12) 1(1)  2(2)  -     -     -     1(1)  1(1)  -     -     17(17)
 [07]    4(4)  1(1)  -     5(5)  2(2)  8(8)  1(1)  1(1)  1(1)  1(1)  24(24)
 [08]    2(2)  -     -     8(8)  -     7(7)  -     4(4)  1(1)  -     22(22)
 [09]    3(3)  -     1(1)  -     -     3(3)  4(4)  -     -     2(2)  13(13)
 [10]    2(2)  3(3)  1(1)  -     -     1(1)  -     -     -     1(1)   8(8)
 [11]    3(3)  3(3)  -     -     -     1(1)  1(1)  4(4)  -     -     12(12)
 [12]    8(8)  8(8)  2(2)  -     1(1)  4(4)  2(2)  2(2)  1(1)  -     28(28)
 [13]   10(10) 6(6)  2(2)  1(1)  -     -     1(1)  2(2)  -     -     22(22)
 [14]    6(6)  2(2)  1(1)  1(1)  -     -     -     -     -     1(1)  11(11)

  Total  189    48    25    17     4    41    31    18     7    14    394
        (189)  (48)  (25)  (17)   (4)  (41)  (31)  (18)   (7)  (14)  (394)


   11111111111111
   000000000111110000000011111111112222222222333333333344444444445 合
   123456789012342345678901234567890123456789012345678901234567890 計
   XXXXXXX.X..X..XXXXXXXXXXXXXXXXXXXX.XXXXXX.XXXXXX.X.XXXXXXXXX... 51
<とれたマルチ> [50 MHz] 101 102 103 104 105 106 107 109 112 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 23 24 25 26 27 28 30 31 32 33 34 35 37 39 40 41 42 43 44 45 46 47
<とれなかったマルチ> [50 MHz] 108 110 111 113 114 22 29 36 38 48 49 50 <時間ごとの取得マルチプライヤー> [50 MHz] [21] 11 12 13 40 14 44 18 41 10 09 15 43 17 07 [22] 45 16 47 21 42 06 03 [23] 26 106 02 24 [00] 46 27 20 23 35 19 25 [01] 28 [02] 37 30 [04] 31 [05] 102 [06] 103 [07] 08 32 39 33 [08] 34 107 104 105 109 [09] 05 [11] 112 101 [12] 04